2008年 06月 26日
シェプキン・アンコール |

2008年 6月24日(火) すみだトリフォニーホール
イタリア協奏曲ヘ長調
パルティータ第二番ハ単調
ゴルトベルク変奏曲
あのゴルトベルクを弾くのにどれくらいの時間がかかったのでしょう?
恐らく一時間以上は途切れなく弾いていたと思います。
全てのリピートを省略しないで繰り返すゴルトベルクには、さすがにこちらもちょっと疲れました。
隣に座ったおじいちゃんも、最後の方はお尻が痛いのか、モゾモゾしてらしたし。
でも全てを弾き終わったシェプキン氏は「食後の軽い運動が終わったぞー」みたいなさっぱりした顔でスタスタと袖に戻ってゆきました。
心身ともにスタミナのある人なんですね(でも決して大柄ではない)
そして手首と指の柔軟性。
まるで蝶がヒラヒラと鍵盤の上を舞うような。
オーバーアクションやもったいぶった態度などは一切なし、気負いがなく自然体です。
CDにヒューマンでコンテンポラリーな演奏とありましたが、ほんとうにその通りの演奏だと思いました。
バッハの音楽の特徴は、岡田暁生氏によればその運動感覚にあるという事ですが、それが一番実感できるのはグールドの演奏でしょうか。
音もタッチも硬質でちょっと乾いている、テンポは即興演奏のようにスイングし、ランダムに変化する。
若々しいマルティンの演奏もその延長線上にあるといったら彼は心外かしら。
シェプキン氏はやっぱりグールドとは違う。
私は少々エキセントリックなくらいのグールドにグッとくるのですが、彼の場合は安定感とバランスの良さみたいなものがありますね。
音もペダルのせいか時折にじんだような音がする。でも濁らない。
丸みを帯びた雨露がコロコロ転がるような、闇に滲んだサーチライトの光が重なるような。
時に音が氾濫し、あらゆる角度に反射して、溢れた光が全ての空間を満たす、そんな圧倒的な音の饗宴を感じました。
でも本当にこの演奏の素晴らしさを実感できるのは、ゴルトベルクの譜面を熟知している人かもしれません。
パズルのような30の変奏曲とアリアを咀嚼、再構築し、それを演奏で実証する。
ゴルトベルクの曲の構造を熟知している人が聞いたら、又違った良さを実感するのでしょう。
私がゴルトベルクを聴いたのはグールドとマルティンに次いで三人目。
人によって解釈が違うのも面白いし、特にバッハはそんな違いを楽しみやすい音楽なのかなと思ったりします。
そしてシェプキン氏がヴィルトゥオーソ系のロマン派やスラブ系の音楽を弾いたらどうなるのか?なんてことを想像するのも楽しかった。
最後に並んでCDにサインを(笑)
握手もしてもらった。
柔らかくて温かい手、
私がハローとサンキューしか言わなかったら、え?それだけ?と言わんばかりに微笑みながら、ちょっととまどったような柔和な眼がこちらを見上げた。
by camelstraycat
| 2008-06-26 00:28
| classical music
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