2011年 06月 08日
コジ・ファン・トゥッテ |

これは「二人の男性が変装してそれぞれ相手の恋人を誘惑し、自分の恋人がどこまで貞操を守れるかを試す」という心理劇風のオペラ・ブッファ(喜劇オペラ)
音楽の大きな特徴はアリアだけではなく重唱にも力点が置かれていることで、アンサンブルの美しさといったらもう・・
精妙なアンサンブルを極上の音で聴いてると、まさにここは天国か?っていうほどの心地よさ
しかしやってることは、ありえない~と首をかしげること多々
バカバカしいんだけれど、よくよく考えると含蓄は深いという、高尚なのかふざけているのか何だかよくわからないオペラというのが私の正直な感想です(ゴメンよ、モーツァルト)
今回は新進気鋭と噂の演出家ダミアーノ・ミキエレットの演出が、大胆な現代風読み替えで面白かった。
若いカップルに女性の貞操は幻想だと教え込むアルフォンソは哲学者ではなくキャンプ場のオーナー、小間使いのデスピーナはキャンプ場のファーストフード店の店員、姉妹とその恋人たちはキャンピングカーで遊びに来た二組の若いカップルということになっている。
演出の読み替え自体は大変よくできたものだったが、ここまで大胆に変えるのなら、いっそのこと歌詞もそれに相応しい言葉遣いや内容に変えればよかったのに・・
デスピーナが変装するのはインチキ医者ではなくレスキュー隊の隊員(にしか見えない)なので(それ自体はナイスアイデア)、それを名医と呼ぶのはおかしいし、ひ素を飲むより睡眠薬のがぶ飲みの方が現実的、公証人も神父とか牧師じゃダメなのかしら?そうするとアルバニアの貴族とか持参金などのセリフも時代錯誤だし・・となると、ダ・ポンテとモーツァルトのコジじゃなくなっちゃう?
結末も徹底的に解釈を変えていて、アルフォンソに試された(騙された)男女4人+デスピーナは全ての人間関係が崩壊し、各自散り散りとなってその場を去るという後味の悪いエンディング。
本来の(というか今まで私の知る)解釈、女とは(=男とは=人間とは)こうしたものと悟った上で、物事の良い面だけを見て生きる人は幸せだ、しかしこのカップルたちは果たして信頼関係を取り戻し、元の鞘に収まることができるのか・・という苦さの中の、ある種爽やかな諦念とでもいうのかな、こんなもんだけどこれも又よしという、懐の深~い従来の解釈とは根本的に違う。
どっちがいいのかというよりも、「元の鞘に収まるわけないでしょう?」というミキエレットの率直さも潔いし、老成した?感のある「ダ・ポンテ&モーツァルト(しかしモーツァルトはこの時まだ30台前半)」コンビの哲学というか美学に沿うものということであれば、やはり後者であると言えるのかもしれない。
ヨーロッパの現代風読み替えは、ベルリンのヒッピー風コジをテレビで見たことがあるけれど、それよりは受け入れやすいかな。
一番違うのは最後の人間関係の破たんとアルフォンソの人物設定
今回はアルフォンソが悪意のある皮肉屋に描かれていて、彼はデスピーナとも男女の関係にあるようで、かなり過激な人物設定になっている。
しかし何故わざわざ恋人たちの信頼関係にヒビを入れるような意地の悪い賭けをするのかという点では辻褄はあう。
要するにヤな奴なんだ。
だから最後にデスピーナにも愛想を尽かされてしまう。
しかしやはり200年以上前の価値観や生活様式を前提として書かれているものを、いくら読み替えとは言え全く不自然さを排して演出するのには無理がある。
ライダー風の皮ジャンを着た髪の毛ツンツンの兄ちゃんたちが、時代がかった歌詞で「毒を飲みます」とか「剣で胸を刺す」とかいうのを聴いてると、見かけと歌詞のギャップに大きな違和感を感じる。
コジはあの時代、風刺の効いた現代劇であったはず
しかし今となっては素材や設定の古めかしさは否めない
そこをダ・ポンテやモーツァルトの哲学を損なうことなく普遍的なテーマとしてどう伝えるか、古いものを古いままで見せるのか、新しいパッケージで目先を一新するのか、どちらにせよ現代人に無理なくアピールするのはかなり難しいワザと言わざるを得ないだろう・・なんて、わかった風な推察をしてみる。
一つだけ、今回の演出と指揮者のテンポが全く合っていなかったというのは言えるんじゃないかな。
あれだけスピード感のある動きの多い演出だから、もっとキビキビ、サクサクと進めてもらいたかったなと、ご一緒したヴァラリンさんやgalahadさんとも話した。


キャンプ・アルフォンソと看板にあるキャンプ場。
コスチュームは左からフィオルディリージ、ドラベッラの衣装、徴兵されたと偽ったのち別人に変装して現れたグリエルモ、デスピーナが扮装するレスキュー隊員(にしか見えないでしょう?)
美術や装置も美しさを追及したものではなく、写実的な機能性重視型という感じ。
夢のような非現実空間にしばし身を置く、なんてことを目的に見ようとするとちょっと落胆するかも。
今回も指揮者とフィオルディリージ、フェルランド役の歌手が変更になった。
歌手はスイムパンツで池に寝そべったり、水をぶっ掛けあったり、キャンピングカーの屋根によじ上って歌うかと思えば、斜面を転げ落ちながら歌ったり
デスピーナはでこぼこの芝生の上を、高いヒールの靴でセクシーに身をくねらせながら歌って演技して・・足を挫かないか?とヒヤヒヤした。
皆様たいへんお疲れ様でした。
指揮 ミゲル・A・ゴメス=マルティネス
管弦楽 東京フィルハーモニー交響楽団
演出 ダミアーノ・ミキエレット
衣装 パオロ・ファンティン
フィオルディリージ マリア・ルイジア・ボルシ
ドラベッラ ダニエラ・ピーニ
デスピーナ タリア・オール
フェランド グレゴリー・ウォーレン
グリエルモ アドリアン・エレート
ドン・アルフォンソ ローマン・トレーケル
by camelstraycat
| 2011-06-08 22:59
|
Comments(6)

なんだかのんびりしてましたね~、演奏。 ただチェンバロがいつもの方だったのでその点はよかったです。 彼女のチェンバロ、指揮とオケの演奏を的確に読みサポートするので私はとても好きです(新国のコレペティもされてるので当然ですかね)。
デスピーナのレスキュー隊員、似合ってたんでけっこうお気に入り。 また今度ケーキ行きましょうね!
デスピーナのレスキュー隊員、似合ってたんでけっこうお気に入り。 また今度ケーキ行きましょうね!
galahadさん
今回もご一緒できて楽しかったです~♪
指揮はテンポというか、何だか演出と根本的に合ってなかったような気がして(上手く言えませんが)いただけない感じでしたね。
チェンバロはそうなんですか・・う~む、私には演奏に関してはそこまではようわからんです、隊長。
でもデスピーナのレスキュー隊はほんと、そう来たか!って感じで笑ってしまいましたね。ミキエレットの演出はアイデアに関しては他の役にしてもセンス抜群で、さすがだったと思います。
ところでルチア、すごく良いんですって?レポが楽しみ。
今回もご一緒できて楽しかったです~♪
指揮はテンポというか、何だか演出と根本的に合ってなかったような気がして(上手く言えませんが)いただけない感じでしたね。
チェンバロはそうなんですか・・う~む、私には演奏に関してはそこまではようわからんです、隊長。
でもデスピーナのレスキュー隊はほんと、そう来たか!って感じで笑ってしまいましたね。ミキエレットの演出はアイデアに関しては他の役にしてもセンス抜群で、さすがだったと思います。
ところでルチア、すごく良いんですって?レポが楽しみ。
こんにちは。
私も、「コジ・ファン・トゥッテ」を鑑賞しましたので、興味深く記事を読ませていただきました。
私はブログに感想を書いてみました。モーツアルトとベートーヴェンの音楽の違いについても触れてみましたので、是非読んでみてください。
よろしかったらブログにコメントをお願い致します。
私も、「コジ・ファン・トゥッテ」を鑑賞しましたので、興味深く記事を読ませていただきました。
私はブログに感想を書いてみました。モーツアルトとベートーヴェンの音楽の違いについても触れてみましたので、是非読んでみてください。
よろしかったらブログにコメントをお願い致します。
出遅れましたが(^^; ご一緒できて、楽しかったです!!
その後、お体の具合は如何ですか?またケーキ、ご一緒しましょうね♪
私は双眼鏡を持って行かなかったのが敗因の一つだと思いました(^^;
何故か今回は、舞台が遠くに感じて。。。
でも、一番の理由は、あの時既に、「心ここにあらず・・」・だったこと、かもしれません(キャーvv)
その後、お体の具合は如何ですか?またケーキ、ご一緒しましょうね♪
私は双眼鏡を持って行かなかったのが敗因の一つだと思いました(^^;
何故か今回は、舞台が遠くに感じて。。。
でも、一番の理由は、あの時既に、「心ここにあらず・・」・だったこと、かもしれません(キャーvv)
desire_sanさん
初めまして
desire_sanさんの感想も読ませていただきました。
コジは私もとっても好きです、アンサンブルが夢のように綺麗ですよね、心理や状況などの描写も私などが言うまでもないですが抜群です。
またオペラなどの感想、お聞かせ下さいね。
ブログへのコメントありがとうございました。
初めまして
desire_sanさんの感想も読ませていただきました。
コジは私もとっても好きです、アンサンブルが夢のように綺麗ですよね、心理や状況などの描写も私などが言うまでもないですが抜群です。
またオペラなどの感想、お聞かせ下さいね。
ブログへのコメントありがとうございました。
ヴァラリンさん
お帰りなさい~
無事に行ってこられたんですね♪
体調はなんとか元に戻りました、ご一緒できなくて残念です、また今度ね。
レポ楽しみにしておりますよ!
お帰りなさい~
無事に行ってこられたんですね♪
体調はなんとか元に戻りました、ご一緒できなくて残念です、また今度ね。
レポ楽しみにしておりますよ!